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千 代 と 水 谷 と 阿 部 と一応花井もいる、よ…
「篠岡疲れてる?」
部誌を書いている最中そう聞かれ、顔を上げるとそこには阿部くんの姿があった。
「え、疲れてないけど…」
「眉間に皺」
「ホント?!」
笑われながら指をさされ、思わず額を手で隠す。
集中していたとはいえ、しかめ面を見られていたなんて恥ずかしい。
すると
「こら!阿部!」
水谷くんが割って入ってきた。
「女の子に"年いくつ?"、"体重何キロ?"、"疲れてる?"は言っちゃいけない3大ワードなんだぞ!」
そう言いながら水谷くん指をいち、に、さん、と三本立てた。
「は?」
「と、姉ちゃんが言っていた」
「なんじゃそら」
「という訳ではいこれ、あげる」
不可解な顔をしている阿部くんを無視して水谷くんがバッグから差し出したそれは二つの包みチョコ。
「甘いもの食べるとニコーってなるよねー」
というわけで部活に行くぞ!お先に!と、自身も二粒チョコを頬張り、水谷くんは阿部くん、花井くんの二人を引っ張って教室を出て行った。
三人が出て行った途端に静かになった教室に思わずフッ、と吹き出しながら、手の平に乗せられたチョコの包み紙を開いた。
水谷くんの真似だ!と、一気に二粒頬張ると、 チョコが溶けて口の中に甘さが広がっていく。
「んー、甘い!」
水谷くんが言った通りだ。
あまりの甘さに、確かに口元がニコっとなってしまった。

(日付不明)

 

田 島 誕 生 日
「ほら、悠!起きなさい!」
大家族の朝は早い。
人数分の朝食、弁当に時間がかかるからだ。
母親に合わせるようにして、田島は朝目覚める。
年老いた祖父母らも朝が早いので、 結局のところ家族のほとんどが6時前には目を覚ましている。
もちろん今日もそれは同じで、いつもと同じように起き、 いつもと同じように朝食を取る。
その奥で母が田島の分の弁当を詰めていた。
ぎゅうぎゅうに詰められたご飯に、昨夜の残りのおかずと、 先程作られたばかりの玉子焼き。そして朝食で残ったおかずだ。
運動部の男子高校生の食べる量はすさまじく多い。
「おー、今日の弁当もうまそー!」
ご飯のおかわりをよそうついでに、お弁当の中身を覗く。
夜のうちにおかずを全部食べてしまい、 イチから全部作り直さなくてはいけない時は、 弁当の中身をあえて見ずに、食べる直前まで楽しみにしておいたりもするが、 今日のように既に昨夜の残りであることが分かっている場合は、 逆に「これを食べる!」と楽しみにしておく事が好きだったりする。
勉強が正直好きではない田島にとっては、 部活と弁当こそが学校へ通う上での大きな活力なのだ。
その弁当もどうせ昼前には食べてしまうのだが。
「おーし、んじゃそろそろ行くかな」
食べ終わった食器を流し台へと運び、代わりに包み終わっている弁当を手に取る。
自宅から学校まではすぐだ。
本来ならギリギリまで家に居る事も出来るのだが、田島は野球が好きで、 やりたくて、早くもうずうずしている。
そこへ「おはよー」とやってきた兄が、 田島に向かってちょいちょいと手招きをした。
「今日はこれで昼飯でも食えよ」と、田島の手に何かを握らせる。
その手を開くとそこには千円札があった。
弁当だけではまったく足りない昼だったが、 これでパンとジュースが買える。
「兄ちゃんあんがと!大好き!」 がばっと田島は兄に抱きつき、全身で嬉しさを表すと「んじゃいってくんね!」と勢いよく玄関を飛び出した。
「あんたがお金渡すなんて珍しいわね」
急に声をかけられビクリとすると、後ろには五人の兄弟を育ててきた名実ともに田島家の大黒柱である母が立っていた。
「母さんもしかして忘れてんの?」
「何が?」
「今日、悠の誕生日」
兄のその言葉に母は目を丸くし、あ!と叫んだかと思うと「お父さんたいへーん」 と、パタパタと奥の方へと走っていった。
ケーキの相談かな、と思わず今夜の食事に期待する。
あの様子じゃ悠本人も誕生日って事忘れてるよな。
そんな事を思いながら、 とりあえず朝飯を取るために、家族の揃うリビングへと足を向けた。

(07.10.16)

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