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7cm-手塚と柴崎の場合
「ピアス…とデニムパンツ?」
「ブブー。一つ足りないから減点5」
彼氏たるもの彼女の事はいついかなるときもチェックしておくこと。
付き合い始めて最初のデートで柴崎が手塚に対して放った言葉だ。
髪形を変えたり、新しい服を買ったりしても気付かない男ってサイテー、というのが女子の言い分らしい。
「あと一つはこれでした」
ピンヒールのパンプスを指差して柴崎はニコリと笑う。
その笑顔が少しだけ怖い。
「そういうのって歩きづらくないのか?」
「慣れよ、慣れ。笠原だと多分5歩で転ぶわね。 それとも『やだー歩きづらーい』とか言ってもたれかかって欲しかった?」
そう言いながらスイスイと歩く柴崎だったが、これが彼女なりの甘え方だということは既に手塚はお見通しだ。
「そうだな、もたれかかって欲しいから頼むよ」
「仕方ないわね」
差し出された右腕に左腕を絡め、二人は本日最初の予定のレストランへと向かった。

(08.10.01/腕を組んで歩きたい柴崎の話)


堂 上 と 郁

「今度"教官"と呼んだら罰としてキスをしてやる」
 名前を呼ぶ、と約束したというのに、つい先日のデートでうっかり「教官」と呼んでしまったときの堂上のセリフだ。冗談でしょ?と反論したけれど、あいにく堂上にとっては冗談ではなかったようで二人きりになったところで堂上は本当にキスをしてきた。どうやら郁が名前を呼び損なった数もちゃんと数えていたらしい。いち、にい、と数字を読み上げながら堂上らしくない軽く啄ばむだけのキスに郁は戸惑いながら応えた。
「あのう……」
 最後のキスを終えて、郁は寂しげに呟く。
「"教官"って呼ぶの止めたら、キスはもうなしですか?」
 堂上はキスを罰だと言った。けれどこんなのは全然罰じゃない。むしろこうやって何度も唇を重ねられることは郁にとって、とても嬉しいことだった。そんな郁の胸中を察したのだろう。堂上がにやりと笑いながら口を開いた。
「名前で呼んだら今度は呼んだ分ご褒美に激しいキスをしてやる」
 とりあえず今日の分な、とされた馬鹿みたいに蕩けるキスを思い出しながら、布団の中に潜り込んだ郁は「篤さん篤さん」と心の中で何度も堂上を呼ぶ練習をした。

(08.05.15)

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